Archive for 3月, 2011

第5話 温泉を掘るということ

Posted on 3月 30th, 2011 by admin  |  コメントは受け付けていません。

26~27年前の事です。

「ホテルを計画されている事を聞きました。」

「今回井戸を掘らせて頂き、いい水に恵まれましたが、今度は温泉を掘りませんか?」

「何ィ~」

次の瞬間灰皿が投げ付けられました。

「俺をだまして金を取ろうとしとるな~」

当時、外食産業の店舗展開で飛ぶ鳥を落とす勢いだった、血気盛んな名物社長が顔を真っ赤にして私たちを睨んでいます。説得は続きます。

「地質状況から考えて、深く掘れば温泉は出せます。」

「奈良の真ん中で、この新しいホテルの目玉として温泉を導入しましょう。」

社長はぶっきらぼうに言います。

「絶対温泉はでるんやな。」

すかさず答えます。

「温泉は出ます。いや出します。」

少し間をおき、社長が睨みながら

「ほ~。そんなに自信があるんやったら掘って見いや。」

「但し金は温泉がでてからやぞ~。」

社長がそう言われた時、温泉を掘るということは、お金の損得だけではないことを感じました。

地域では大注目のホテル事業です。

ホテル建設費用の中での温泉開発費用は、それほど大きなウエイトを占めません。

でも、もし温泉が出なかったら、敵対する同業者から今回のホテル事業が不調という情報も流されそうです。

関連事業にも大きな影響を及ぼしかねません。

これまでの足跡や成功を続けてきた事業が否定的に見られる可能性さえあるということを社長は直感的に感じているように思えました。

温泉掘削工事は始りました。

私たちはもちろんですが、それ以上に社長は祈るような気持ちであったのかもしれません。そんなそぶりはまったく社長にはありません。

ホテルの建設工事も始まり、かわらず精力的に事業を進められています。

数カ月してめでたく約40℃の温泉が湧出しました。

寒い時期なので温泉井戸付近は湯気だらけです。

ホテルの完成を控えTVや新聞などのマスコミも多数取材に来ています。

湧出している温泉井のそばで私たちが待っていると、怖い顔をした社長が現場に現れました。「やっと出たか?」と言われてゆっくりと温泉に触れて確かめたり、口に含んだりしています。「ほんまの温泉やな」・・・・・・・。

その後、湧出する温泉井戸のそばで社長のインタビューや撮影が次々に行われます。

その日の夕刊には大きく「温泉湧出」「天平の熱き想いか?」(平城京跡に近い現場だったので)等の記事がありました。

夕方のTVニュースにも取り上げられています。

地域ではほとんどの人が温泉湧出とホテルのオープンを知りました。

後日温泉掘削工事終了を社長に報告に伺いました。

「温泉の湧出はかなり無料で宣伝になった。温泉工事費用分くらいの広告費用になったな。」

「温泉が出てよかったですね。」

「お前の会社もいい宣伝になったやろ?」

「どや、工事代金は半分でええか?」・・・・・。

第4話 温泉は湧き続ける(後)

Posted on 3月 30th, 2011 by admin  |  コメントは受け付けていません。

いくつもの温泉の凄さを教えられたこの温泉は、数年後に温泉施設で活用されました。

売りはもちろん“都会でホンモノの温泉に入れます。”温泉は大盛況となります。

それから、数年後、社長は亡くなられてしまいました。

本当にありがとうございました。

温泉施設オープンから約20年後の平成22年

その後息子さんが社長となり、丁寧なサービスで温泉施設は続けられますが、まだスーパー銭湯がほとんどない時代に建てられたお風呂ですからやはり古い感じがします。

今では周囲にも温泉施設やスーパー銭湯が建ちました。お客様の数も頭打ちです。

「社長のいわれていたようにゴミになるのかな」私は心の中で危惧していました。

「リニューアルをしてみようと思う。」

2代目社長の判断です。

なんでも結構です。ぜひ協力させて下さい。

色々な案が出ては消えます。2代目社長さんはじっくりと考え、本質を見抜きます。先代の社長さんとそっくりです。その他スタッフも努力を惜しみません。

「露天風呂を大きくして、もっと温泉を活用しよう。」

「かけ流しで排水している温泉を、ヒートポンプで再利用しよう。」

ふたつの基本方針が決まり、リニューアルがスタートしました。

リニューアルを控えた休館中のスタッフ教育や、新しい営業展開も毎日のように検討されています。温泉法の改正で可燃性ガスの対策も必要です。

リニューアル工事も紆余曲折を経て、あのプレハブのお風呂と同じように、露天風呂には鉄分・塩分たっぷりの温泉がかけ流しで注がれています。稲を枯らした温泉排水はその排熱を再利用して省エネを実現し、排水熱利用で補助金対象事業となりました。

いよいよOPENの前日を迎えました。

私は前社長に報告したくて、よく縁側で商売の話を聞かせて頂いたご自宅を訪ねました。

仏壇に手を合わせていると、現社長からご挨拶を頂きました。

私は、前社長によく「建物は建った時からゴミ、温泉は湧き続ける。」と教えて頂いた事をお話しました。

社長も「口癖のように言うてましたな~。」とほほ笑まれました。

第3話 温泉は諸刃の剣

Posted on 3月 30th, 2011 by admin  |  コメントは受け付けていません。

この湧出した温泉は泉温50℃を超え、泉質は有馬温泉のように鉄や塩分も濃いミネラルたっぷりの温泉です。

ガツンと身体に刺激を与え、入浴後も身体はずっとポカポカしています。

この温泉は例のプレハブ小屋の家庭用のお風呂にミネラルの塊(?)のような温泉を掛け流していました。

その排水は、生活排水と同様に雑排水路から指定の河川へ放流されています。

この経路は工事排水上、問題はなかったのですが、たまたま数日間だけ特別に農業用のため池にその排水路より引水がなされていたのです。

結果、数か所の田んぼに温泉が混入したため池からの水が引かれ、収穫前の稲が全て枯れてしまったことが後日判明しました。大失態です。

社長は言いました。

「ご近所さんにご迷惑はかけたらいかん。出荷量の3年分を買い取らせてもらいましょう。」「温泉は色々ありまんな~」

社長と私は1件1件農家の方々に謝りに行きました。

濃い温泉は身体には強い刺激があり、温泉効果を実感できます。

しかし、排水や設備への影響を特に注意する必要があります。

“温泉は諸刃の剣”温泉の力をまざまざと見せつけられました。

第2話 温泉の誕生に感謝

Posted on 3月 30th, 2011 by admin  |  コメントは受け付けていません。

その後、社長がゴルフ練習場等を営む20,000坪の土地の片隅で温泉掘削工事が始まり、約4か月後、1500m掘削後に温泉が湧出しました。50℃をこえる熱い温泉です。

社長はニコニコして言いました。「感謝を皆さんにおわけしないといけませんな」

数日後、私が試験汲み上げを確認に現場へ出向いたところ、温泉井戸のすぐ隣にプレハブ小屋が建てられ中には家庭用のバスタブが一つ設置されています。

その中には、温泉が溢れるように注がれています。

これぞかけ流しです。

地下1000m以上の地球の圧力から開放された生まれたての温泉のエネルギーが、小さなプレハブ小屋の中に充満しています。

仕事を忘れて湧きたての温泉に入りました。

温泉臭さと熱気で気が遠くなり、すぐにノボセました。

まさに湯当りです。

本当にうれしかった。

完全に仕事と責任を忘れてしまいました。

それから数日、そこには近隣の人が噂を聞いて入浴にやってきます。

もちろん無料です。

「この温泉で子供のアトピーが治った。」「膝や腰の痛みがなくなった。」

「温泉はよく温まるわ~。汗が噴き出して来るわ」社長はニコニコしています。

ある日TV取材が来て、この様子がニュースで放映されました。

「都会の真ん中で温泉湧く!」「温泉に入ってカラダが治った!」

次の日保健所があわてて飛んできました。

「温泉法上では不特定多数の人に・・・・・・」

喜びすぎました。

保健所の担当者は言います。

「まだ温泉が湧出しただけです。温泉法ではポンプ設置や利用の許可を取ってもらわないと使っては困ります。」

社長は、「温泉が生まれたお祝いやがな。ご近所の皆さまにおすそ分けしているだけです。」

「お金を取っているわけやないです。」

「でも法律上・・・・とにかくお風呂は中止して下さい。」

社長の感謝のお祝い事は1週間ほどで幕となりました。

それでもTVを見た人は現地へ来ます。

「温泉が湧いているのはここですか?」温泉の効果を体感したご近所の人々は口を揃えて言います。

「ここの温泉はよう効くで~。」

「社長、早くお風呂を作ってや。ここの温泉は最高や。」・・・なるほど、さすが社長です。

この件は温泉法を知っていながら、社長と共有したあまりの感動とうれしさに試運転という形で何とかならないかなどと甘く考えていた私の責任です。

もともと入浴者は集まってきた近隣の方たちだけの少数だったのですが、日を重ねるうちにうわさが広まり、ついにはTVまで・・・・申し訳ありませんでした。

この時ひそかに私は思いました。「温泉はスゴイな~ 多くの人を感動させている」
歴史が始まった気がしました。

第1話 温泉は湧き続ける (前)

Posted on 3月 30th, 2011 by admin  |  コメントは受け付けていません。

約25年前に大阪で温泉を掘って頂いた当時80歳の社長との会話です。

「私の土地で温泉を掘って温泉が出たら、その温泉は私の財産ですか?」

「基本的にはそうなります。」

「今、私がなぜゴルフの打ちっぱなし(ゴルフ練習場)をしているかわかりますか?」

「それは人件費が少なくて建物の面積が少ししか必要ない商売だからです。

土地の上に建物を建てたらその時から建物はゴミに向かうんです。

せいぜい30年、壊すのにもお金がかかり、それを捨てるにもお金がかかります。」

「30年も経てば世の中どうなっとるかわかりません。また次の新しい商売を始めとるでしょう・・・。」

「温泉が財産なら、次の商売にもまたその次にも温泉は新しい商売に使えるんですな~。何せ温泉は土地にくっついとるんですからな~。ものすごいエネルギーですな~。」

その社長はバブル期にも土地は売買して商売するものではなく、事業をする為に買うモノとつねづね言われていました。

この社長はすぐに「社長が所有する大きな土地全部(5本)に温泉を掘って下さい。」と言われました。

その当時、大阪都心部での温泉開発はまだ数本程度でした。